遅咲ゆーとぴあ

いい大人2人と猫のスットコドッコイな日々

カニパンの思い出

幻のパン

カニパンをご存知だろうか。知らない方でも文字から想像する通り、カニの形をしたフカフカのパンである。

カニパンはいつも私たちの傍にいた…かというと、そんなことはない。私が子どものころカニパンに会えたのは、水曜日の午後だけだった。

近くにあって遠いもの

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小学校3年生の頃、水曜はスイミングスクールに通っていた。といっても自主的に習っていたのではない。学校の後に水泳するなんて面倒くささの極みだと思っていたが、親の指示で通っていた。

今考えてみれば、本当に面倒くさかったのは共働きなのに送迎してくれていた親のほうだったと思う。親の心子知らず。

そもそも学校の授業で25メートル泳ぎ切れなかったのを親が心配して入れたのである。無事泳ぎをマスターした私は、今と違ってお腹のほっそりした子どもだった。

 

 

さて、学校帰りに水泳した子どもは、当然お腹が空く。水中から陸に上がるとなんであんなに空腹になるんだろう。帰宅してからご飯ができるまで、1時間はかかるというのに苦痛すぎる。

そんなとき、受付にまるでオアシスのように、カニパンが売られていた。カニの絵が描かれたパッケージは無視しようとしても目に飛び込んでくる。食べたい。

カニパン買って」と頼んだことがあったが絶対に買ってもらえなかった。

理由は聞くまでもなく、「夕飯が食べられなくなるから」といういたってシンプルなもの。

このカニパンたちは、間違いなく水泳後の空腹を満たすために存在していた。ここで食べ物を販売すれば買う可能性が高いと思うのは当然だ。

でも、私のように買ってもらえない子がたくさんいたし、一緒に通ってた友達も買ってもらえていなかった。

 

このカニパンは飾りか…?

 

子ども向けっぽい見た目だけど、もしかして先生とか大人がおやつに買ってるだけなんでは?と思い、ふてくされて諦めた。

甘いのかしょっぱいのかも分からないが、だめとなると余計においしそうに見えるから不思議である。

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話題の中で再開

それから10年以上経ったころ、同僚と話していてカニパンの話になった。あれからとうとう一度もカニパンを食べられなかった私は、カニパンの存在を知る人と出会い歓喜した。しかもその人はあのスイミングスクールに通ったことがあるという。

まさか…

 

「買ってもらったの?」

「うん。帰りに食べながら帰ってたよ。」

 

買ってもらってた人、いた。幻の食べ物じゃなかったんだ。

 

しかし、もし自分に子どもができて夕方にパンをねだられたら、やはりこう言うかもしれない。

「夕飯前だからだめ。」と。

そして我が子もずっとカニパンの味を想像しながら生きていくのかもしれない。

 

やはり幻のパンだ。

 

ちいさきおぶー (@osozakibu) on Twitter